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2011-11-14

花すずめ(後編)

 「結局、ひとりも妃をとらないまま円時山にお入りになるのねえ」
 なにか残念そうに一人が言うと、数人の同意が続き拡がる。中でうふふと含み笑う者があった。
 「あらだって、それは仕方ないわよ」
 気を持たせるような間を置き、同じ声はさらりと言い切る。
 「東皇使さまは、うちの皇子さまに夢中だもの。とても妃なんてねえ…」
 (           !)
 東雲がへたりと卓に突っ伏した。蕾は茶碗を持ち上げたまま硬直している。
 しかしそんな様子を夢にも知らず、花の宮の雀たちは主を肴にかしましくも楽しげに噂話を続けた。
 「えー、そうなの!?それは、仲がおよろしいとは思ってたけど…」
 「だって、何かあるといの一番に駆けつけていらっしゃるあのご執心ぶりよ?しかも、ともすれば命がけ。幼馴染のひとことで片付くかしら」
 「そうよねそうよね、私もそう思ってたわ!」
 「眷恋やる方なし、って感じ」
 「誰が見ても丸わかりよねー」
 もう森の皇子は顔を上げるどころではない。下界と異界の知友たちに思いっきり見抜かれはしたが、天界の者には知れていなかったことに多少の慰めを得ていたのに。またしても『誰が見ても…』と来た。
 へたばっていると、はじめの声が少し調子を変える。
 「でも、花将さまのお気持ちはわからないわねえ」
 それには、東雲はうっかり同意してしまった。自分だって知りたいと思う。
 「花将さまも、東皇使さまに事あらば簡単に命を投げ出されるんだけど。あの方の場合、それが東皇使さまのおためだけとは限らないんだもの」
 鋭い一言ではあった。花すずめ、なかなか侮れない。
 「一体どう思ってらっしゃるのかしら。東皇使さまもそのあたり、ご出立の前に知りたいと思っておいでなんじゃないかしら」
 「ああ、そうねえ」
 「でも聞けないのよね、わかるわあ。聞きたいけど聞くのが怖い、恋なんて矛盾と心配ばっかり」 
 もう東雲はものも言えない。それを置いて、蕾がガタリと立ち上がった。途端に外の話し声がぎくりと止む。
 「んな~にを下らんことをくっちゃべっとるか、ばか者どもッ」
 窓から顔を突き出し大声一喝、女官達の悲鳴が上がった。
 「あっ、み、皇子さま!?」
 「地上にいらしたのでは…」
 「申し訳ございませんっ」
 バタバタ逃げ出して行くのを、蕾は鼻息で送る。
 「まったく、女どものしつけがなっとらん」
 「そういうのは、宮の主の責任なのだけれどね…」
 とある幼児体験から東雲がぼやくと、意外や花の皇子は反発を見せずに振り返った。
 「東皇使さまには、めでたかるべきご出立の前に不調法を…」
 床に手を着こうとするのを、森の皇子が慌てて止める。
 「やっやめておくれ、そんなことをされては余計に切なくなってしまう」
 「…だが」
 「よいのだよ、私の未熟だ。それだからこそ修業に行くのだと思えば」
 東雲はヤケ半分に言う。自分の惑いに囚われていて、もそもそ立ち上がる蕾の小さな呟きを聞き取れなかった。
 「…聞きたいのか?」
 「え」
 問い返すと花は、もう口を開かずにじっと彼を見つめる。
 「蕾…?」
 促す声はかすかに震えて宙を這い進み、動かない御大花将の髪を揺らす。蕾のまぶたがかすかに震えた時、廊下へ続く扉が叩かれた。
 「お待たせいたしました、東皇使さま。錦花仙帝さまのもとへご案内申し上げます…」
 



 あかつきを迎える直前の闇に、白い背中が吸い込まれるように消えて行く。何があっても、千年経とうともと言い切った花が、彼の心の中にも幼馴染の森の皇子の占める場所があるのだと伝えてくれた花が。 
 潔斎前夜の東皇使は、それでは、と宙に呟いた。
 「君は否定しないのだね…」
 彼が何を抱えていても。
 本当は、三年前に幻の花について告白した時、彼はいじわるなどしたのではなかった。言わずにいられなくて、それでも蕾にも自分自身にも逃げ場を与えるつもりで幻なのだと言った…彼に何も求めていないのだと安心させるためだった。
 だけど本当は。
 そう、雀たちの見解は正しい。それに、彼女たちのお蔭で蕾はささやかな餞別の宴を持ってくれたのだろう。
 なかなか侮れない…もう一度思い、東雲は小さく笑った。
 強く思う。
 戻って来よう。できるだけ早く。彼と自分の幸福が一致する可能性を探るべく。なに、失敗しても現状維持は保証されたのだ、少しだけ踏み出してみるのも悪くはない。
 まあ…と緑仙の口元に苦笑が浮いた。
 一番先に幸福になるのは、噂話の好きな花の雀たちかもしれないけれど。
 夜の底にほのか白い光がともり、そこにかすかな歌を聞いた気がした。



-了-

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2011-11-12

花すずめ〈前編)

 「ああそうだ、蕾」
 “東皇使さまの想い人は花将さま!?”騒動もうやむやのうちに落着し、手柄(?)の妙香花仙を含む一行は天界への帰路に着く。
 その途中、ウワサの東皇使さまが前を行く花将さまにお声をかけられた。
 艶王大公の姫がぴくりと視線をよこすのに彼は気づいていたけれど、そこでギクシャクすれば余計に怪しいというものだ。東雲は努めて平静を装いつつ、なんだと振り返る幼馴染に追いついた。
 「錦花仙帝さまにご挨拶させて戴きたいから、戻って着替えたらすぐ華恭苑に行くよ」
 「そうか」
 と蕾は、自分には関係ないとばかりにそっけない。しかし、そのいつも通りの態度が今の東雲にはありがたかった。
 夕暮れの空を、ひと群れの天仙たちが行く。香気を引く花仙を取り巻いて華やかに風が香る。けれど三通りの、殊に香りを司る大仙の至高の芳香とともにあってさえ、自分はただひとつの香りを嗅ぎ分け囚われてしまう。これでは自分の気持ちを悟る者があっても当然かと、森の皇子は自嘲に目を伏せた。
 まったく、東皇使たる身になんということだろう。天仙たちに気づかれていなかったのが、まあ唯一の救いと言うか、それも今となっては虚しいと言うか。
 ふと視線を落とせば、残照に赤く染まる足下に鳥の影がふたつ。つがいだろうか、小さな雀たちが先になり後になり夕日を追っている。
 子供の頃は、自分たちもあんな風だった。何の気負いも衒いもなく、思うままに戯れていればよかった。好きに種類があるなんて知らずに、大好きと幸福がイコールだと思っていれば。
 (今の自分が不幸だとは思わないけれど…)
 この鋭くも甘やかないたみを抱えたまま、どれほどの時を過ごすのか。そのうちには、誰にも悟られることなく想いだけを抱え込んでいられるようになるのだろうか。
 東雲はうたた乱れる心を溜息に逃がし、そっと宵雀たちに春の祝福を贈った。地上の小鳥たちは、礼のつもりかやさしい歌をうたう。それは、恋の歌かもしれなかった。




 「ずいぶん早いな」
 半ば呆れるような蕾に、衣服をあらためた東雲はちらと苦笑する。
 「まあ、始めから錦帝さまのもとへご挨拶に伺うつもりで、装束の用意はしてたからね」
 「ふん。それはいいとして、なぜ先にオレのところへ来る?」
 「錦帝さまには先にご来客があったから、待たせて戴こうと思って」
 「時間つぶしか、面倒なことだ」
 花の化が軒下の欄干をするりと降りた。そんなことを言いつつも自室に入って卓に近付き、珍しくも茶器に手をかける。
 「おや、御大花将どのがお手ずからお茶を淹れてくださるのかい」
 緑仙がからかうように言ってみると、意外にもやわらかい笑みが返って来た。
 「たまにはよかろう。しばらくはそんな機会もなくなるのだしな」
 「蕾…」
 それは、自分がいなくなることは彼にとっても意味があるということか。目を瞠る東雲に、蕾は背を向けたまま椅子を示した。
 「まあ座れ」
 東雲は言われるまま席に着き、幼馴染の動作を見守る。少々不安を覚えたからだが、果たして彼の危惧は正しかった。
 茶漉しにざらりてんこ盛りにされた茶葉を見て、思わず立ち上がる。
 「ちょっ、ちょっと蕾、多すぎるよ!初期の英国じゃあるまいし、茶葉を食べるわけじゃないんだから」
 「あん?面倒な…じゃあ、お前やれ」
 茶支度の盆をまるごと押し寄越されてしまった。蕾は結局蕾だと苦笑がこぼれる。
 「いいけどね…」
 花の皇子のあとを引き取り、森の皇子は手際よく茶を淹れた。さすが花の宮、香り高い湯気がほわりとのぼって揺れる。少し、蕾の花気に似ていると思った。
 「ええと、蕾」
 東雲は茶碗を渡して軽く咳払いする。無言のまま瞳を上げる蕾のまっすぐな視線に灼かれ、胸の詰まる心地がした。
 「今回はその、なんと言うか…私の未熟のせいで、君にも迷惑をかけて」
 「言うな」
 花仙が遮る。その声はしかし、常の峻厳さを持ってはいなかった。東皇使が幻の花に囚われていると告白した際の狼狽ぶりを思い起こさせるような困惑が語尾に忍んでいる。
 「蕾…?」
 「迷惑、と言うべきものではなかろう。おそらくな…」
 「……」
 幼馴染たちを静謐が包む。
 それは気詰まりなものでなく、むしろ豊かな気安さと呼ぶべき親しみに満ちていた。こんな風に時を重ねて行きたいと思わせるような。これからも。
 「東雲…」
 蕾が何か言いかけた。しかし同時に、縁の向こうから華やかに笑いさざめく声が聞こえて来て、接ぎ穂を失ったように口を閉じる。
 近付いてくるのは女官たちか、ころころと楽しげに笑い合っている。
 「そう言えば、東皇使さまは…」
 え、と幼馴染たちが顔を見合わせた。





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2011-11-06

隠りなば

 「ほら蕾、今度はそっちの腕を貸してごらん」
 促すと欄干の上の花は、細い腕を大儀そうに持ち上げる。
 「もう大丈夫だと言っとろーが…」
 柱にもたれた頭の方から溜め息がこぼれて来ても、東雲は頷こうとしなかった。
 「君が自分について言う大丈夫ほど信用のならないものが、この世にあるかね」
 蕾の体に異常のないことを確認し安堵しながらも指摘してやると、テキはふんと鼻息を噴く。
 「だからと言って、それをお前がいちいち気にする必要はあるまい。どうも慧兌回神の封印後というもの、お前は心配性が過ぎる」
 「そんな言い方はないだろう…」
 投げ捨てるような言葉を浴びて、森の皇子は口の中で呟いた。本当に、心配したのに。怖かったのに。蕾が今度こそ失われるのではないかと。
 身に余る力を封じもせずに温存し、それを放出することで世界の危機を救った蕾。いまは元のように封印を受けて少年の姿になっているが、揺れに揺れた東雲の気持ちまでが元通りになったとはとても言えない。
 「東雲?」
 覚えず固まっていたらしい。花が不審そうに呼びかけて来る。緑仙は気を取り直し、
 「またそんな憎まれ口をきく…幼馴染の心配をするのが何か悪いと言うのかね、この口は」
 ぎゅう~、と頬をつねり上げてやった。が、すぐにぱっと放す。
 手に残る、すべすべしたやわらかさ。自分の手を見下ろす彼に、その幼馴染は反抗的な瞳を当てた。
 「何事も程度問題だということだ」
 強い視線はいつものこと、緑仙の胸を貫きとおす。かるくかぶりを振り、東雲は肩から息を落とした。
 「君に言われたくはないね」
 まったく、何にでも全力で当たる自分をどうだと思っているのか。
 それは、時には命を投げ出す決断というものが必要とされる場合というものもあるかもしれない。けれど、この花はその基準が途轍もなく低い。周囲には簡単と見えるほど無造作に自分の生命を投げ出してしまう。
 いつも、他者のために。蕾は主義と行動の乖離がない。
 なんと高潔であって、なんと罪深いのだろう。ひとの気も知らず。頓着せず。
 自分の溜め息の重さに、東雲ははっと我に返った。
 恐るべきことに、病は昂じる一方だ。隠さねばならないのに、隠さねばならないと思えばなおさら。
 「東雲…?お前こそ、帰って寝たらどうだ」
 蕾が睨むように顔を覗き込んで来る。口調は素っ気無いが、幼馴染の様子がおかしいと心配しているらしい。東雲は笑ってしまった。
 「感情表出の認知は社会文化に依存しない、などと言うけれど。君の表情や言葉を的確に理解できるのは、私くらいなものではないかね」
 言ってみると、つれない花が眉を顰める。
 「あん?また訳のわからんことを…
 「単に慣れだろう」
 森の皇子は吐息を胸の底に落として目を伏せた。自分の思いを伝える気はない。たぶん一生。なのに、伝わっていないことがこんなに辛いのは勝手というものだろうか。隠れているならそれでいいはずなのに、隠せていることの意味が苦しい。
 自分ばかり、と理不尽な悔しさがかすめる。少し蕾だって混乱すればいい。
 「おや」
 東雲はわざと皮肉げに眉を上げ首を傾げて見せた。
 「愛だとは言ってくれないのかね」
 ぶ、と蕾が噴く。
 「あああ、あいい~~?」
 白磁の肌に浮く血の色も艶かしく顔を振り仰がせるから、揺れる空気に弾けるような花気が散った。
 「え        
 東雲から言葉が失われた。どうして、蕾はそんな顔をするのだろう。
 蜜を溶かし込んだような瞳を。
 「…バカ者」
 花の皇子が言い捨てて、ふわりと宙に躍り上がる。視線の軌跡を流して、彼は東雲に背を向けた。
 「蕾…」
 森の皇子は追うように呼びかける。しかし聞けなかった。知っているのかい、とは。
 隠しているはずなのに。隠れているはずなのに。
 「ああ…」
 ひそやかな嘆息が残された風に揺れた。
 隠れれば、なお想いは。



  
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