2011-10-31

花開会46

 「ふう…」
 入って来るなり溜め息をつく東雲に、部屋の主はじろりと険のある視線を流した。
 「なんだ辛気臭い。嫌なら無理に来なくともよいものを」
 「まさか。君に会うのが嫌なわけがない、そうではなくてね。さっき天の中洲の王子と竜王の二人連れに行き会って…竜王の嫉妬混じりの冷やかしはいいとして、もうお一方の恨み言がねえ」
 「ふん?オレのところへ暇乞いに来た時には、何も言っておらんかったが」
 蕾のもとを辞す二人と、蕾のもとへ向かう東雲が顔を合わせたらしい。間が悪かったなと森の皇子は目の奥でもうひとつ嘆息した。私に愛されてますます美しい蕾を見た後では、と思う心はおもてに出さず。
 「そりゃ君にはね。でも私は、自分の恋がうまく行かないのはいつも私のせいではないか、なんて言われてしまったよ」
 ほとほと困ったという様子で言いながら、森の皇子はごく自然に妻となる女性を引き寄せて額に口づける。
 「君は絶対に譲れないにしても、前回は私はむしろ応援する気持ちだったのに」
 「お前けっこうひどい奴だよな…」
 花の皇女には感銘を受けた様子はなく、逆に東雲を押しのけた。そのままふいと背を向け、窓際の長椅子へ向かう。しなやかな背をさらさらと鳴る髪が慕い、やさしい香気がふわりと揺れた。
 「もっともオレも、今となってはひとのことは言えんが」
 「つまり、君も私を譲れないって意味だね?」
 嬉しそうにあとを追う東皇使に、御大花将は聞くなと怒鳴ってどすんと腰を下ろす。
 「蕾、そんな乱暴に」
 「うるさい。お前は世話が過ぎるのだ。さっきよこした文にしろ…体を冷やすな走るな重い物を持つなああのこうのどうのと。ぜんたい、どうせ現れるなら文なぞよこさんでもよかろう、手間らしい」
 蕾らしい言い草ではある。苦笑した東雲は隣に座って華奢な手を取った。
 「そうは言うけど、世間的にその手間というものが重要なのだよ。私は隙など見せるわけには行かないんだ、どこからどんなお邪魔虫が涌いて出て来るかわからないのだからね」
 「~だからお前は、いちいちベタベタするなっ。ただ話をするのに手を握る必要があるのか!?いくら、じきに長の留守を控えていると言ってもだな…」
 「それだよ」
 振り払われてまた苦笑しつつ、東皇使は深く頷く。
 「?」
 「私も、すっかり出立が近い気でいたのだけれど。なんでも瞭道博師という方は、目覚めの兆候を示してから覚醒するまでに三年かかるんだとか。だから円時山には、君の出産に立ち会って、無事を確認してから入ることにする」
 「ああ…そう言えば、そんなことも言っておったな」
 蕾はやっぱり忘れていたらしい。それとも本気にしていなかったのか。ぼんやり呟くのを見つめ、東雲は小さく微笑んだ。
 「ともかく、そういうわけでね。私がついているから、安心して、良い子を産んでおくれ」
 「良いも悪いも、心がけひとつでどうにかなることでもあるまい」
 現実的と言うのか、蕾は容赦がない。と思えば、ぽそりと付け足した。
 「まあ、心がけぬと言うでもないが」
 なんと言われても、手を止めようがなかった。東雲は細い肩を抱き寄せる。
 「生まれたばかりの一番大変な時に、そばにいられなくてごめん…」
 すこし項垂れると、蕾が大きな瞳をふと緩めた。
 「なに、可愛い盛りとやらを見逃すお前が気の毒なまでのことだ」
 これには東雲は、もっとうなだれるよりほかに仕様もない。
 「いじわるだね…」
 呟くと蕾は、莞爾と笑った。
 


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