2012-06-28

恋よ恋(11)

 「あっ…!」
 固まった香穂の代わりに、英が叫び声を上げた。
 「ははうえっ」
 呼びかけた相手は、小さなつむじ風ひとつを纏ってやわらかく地に足をつける。幼仙が母と呼ぶなら、それはもちろん万花の守護者たる御大花将、麗しの花の皇女が現れたのだった。
 蕾は絹糸の髪を背に流し、すいと片手を上げた。まだ固まっていた香穂がびくりと身を縮め、それを庇うようにして英が一歩前に出る。
 「あの母上、ぼ、ぼくがわるいんです。ぼくが勝手に地上に降りて来て、かぐほはおっかけて来てくれて」
 必死に言い出す男児に、その母は短く息をついた。
 「言いだしっぺはいつもお前で、巻き込まれるのが香穂というわけか」
 何やらどこかで見た関係のようではある。巻き込まれる側がノリノリな点はともかく。と思ったかどうか、こっそり天を仰いだ蕾は小さく肩を揺すって息をついた。
 「まあ、その話はあとでゆっくり聞く。それよりも」
 うすく笑み、輝きのつよい瞳をまっすぐに怪魔へと向ける。
 「なかなか興味深い話をしていたようだな。オレにも説明願おうか」
 「おっ…おう…」
 来尾は気圧されたように、少し腰を引いた姿勢で頷いた。ちらと視線を夕姫とその子供の姿が消えて行った方向へ流し、ひとつ咳払いを零す。
 「えーと…どっから聞いてたんだよ」
 問えば天仙がふむと我が顎を撫でた。
 「恋は盲目、のあたりか。お前も、なかなかにしゃれたことを言うではないか」
 からかう声音に、怪魔がふてくされた顔をする。
 「ちぇっ、おまえみたいな野暮天に言われたかねーっつの」
 言い返されても蕾は怒るでもなく、ちらと笑って先を促した。
 「で?」
 「あー、そっちのガキどもも見てんだけどサ」
 視線を流された姉弟が、母の顔を見上げてこくこく小さな顎を頷かせる。来尾はふと緩んだ頬を引き締めて真剣な声を出した。
 「人間の恋心ってヤツを食う怪魔に、どうも夕姫がとりつかれてるみたいだって話だよ」
 「影響は?」
 「聞ーてたろ。このままだと、夕姫は透への恋を失くして、最悪破局。だな」
 来尾がぱっと両手を開く。
 聖仙は秀麗な眉をぴくりと動かしたが、それも一瞬のことで小さく笑みを作る。
 「なんだよ?」
 「いや…おかしな怪魔だな、お前は。夕姫と透の破局が最悪で、気に入らんか」
 「…うっせー。いーだろ、別に」
 再びふてくされるのへ彼女は、意外なほど優しい苦笑を向けた。
 「褒めたつもりだが。まあいい、ではその怪魔を祓えばいいのか?」
 「そう単純じゃねーよ。オメーだって、いー加減わかってんじゃねえの?感情のベクトルってのは、一旦振れたらそうそう他人にどうにかできるもんじゃないだろ」
 「」
 蕾が大きく目を瞠る。珍しく宙をうろつく瞳に映る陰は、刻々近付いて来る黒雲なのか困惑なのか。ほのかに頬が赤いようにも見える。
 怪魔が口を尖らせた。
 「だから結局、自分次第なんだって。さっきからそう言ってんじゃん」
 「あのう、母上」
 我慢できなくなった、という顔で、拳を握った幼仙が口を出す。
 「でも夕姫どのには、幸せでいて戴きたいです」
 「香穂」
 「親切にして戴きましたし、優しい方です。ちょっと話しただけでも、わかります。だから母上のお力で、どうにか…」
 言い募る途中で、一同の上にふと影が差した。同時に大気が低く唸る。
 「…!」
 香穂の顔からざっと血の気が引いた瞬間、閃光とともに世界を砕くような轟音が響いた。







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 更新まで間があきまくってて、自分で構想忘れてますよ…いやはや。



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まとめ【恋よ恋(11)】

 「あっ…!」 固まった香穂の代わりに、英が叫び声を上げた。 「ははうえっ」 呼びかけた相手は、小

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 「あっ…!」 固まった香穂の代わりに、英が叫び声を上げた。 「ははうえっ」 呼びかけた相手は、小

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