2013-12-22

恋よ恋(13)

 「あ、蕾ちゃま」
 川原田家に入ると、迎えに出てきた夕姫が嬉しげな声を上げた。そのエプロンの裾を、彼女の子供がしっかり握り締めている。
 「双子ちゃんのお迎え?早かったのね」
 「ああ」
 相変わらずキレイ、とハートマークを飛ばすのへ、花仙も彼女にしてはやわらかな微笑を返す。それはおそらく、己が守る対象であると認識している者へ向ける表情だ。
 かるく頷いた蕾はちらと背後へ琥珀の瞳を流した。
 「香穂はいつも透たちの話を熱心に聞いていたからな。もしやと来てみて正解だった」
 視線の先では、透に抱えられた姉児がその状態でできるだけ威儀を正そうと奮闘している。
 夕姫はちいさく微笑んだが何も言わず、奥へと一同を促した。
 一見自然な態度のようだが、昔馴染みの目に違和感を映して蕾は僅かに眉を顰めた。常の夕姫ならば、夫にひと声なりとかけるはずであるのに、まるで無視するような態度だ。
 これがつまり怪魔の影響ということだろう。
 「なんだよ、香穂は俺らに興味津々か?」
 「違いますっ。わたしはただ、母上のお話をしっかり聞いていたに過ぎません」
 「照れるなよこいつー」
 背中では明るい声がする。何でもないように香穂をからかっているが、透はあれで意外に敏い性質だ。夕姫の変化に気付いていないはずがない。そして、傷ついていないわけがない。
 こっそりと息をついた時、雨がいきなり盛大に屋根を叩き始める。その音に紛れて、かすれた笑い声を聞いた気がした。



 案内された座敷は、簡素ながら落ち着いた居心地のよさそうな佇まいだった。床の間には夕姫が活けたのだろう、季節の花が化盆の上にすっきりと美しい。
 「もしあんまり遅いようなら、前に貰った蕾ちゃまの香玉を使ってみようかと思ってたのよ」
 茶支度を終えて戻って来た夕姫は、子供たちの前に置いた小皿に手作りらしいあられをざらりと盛る。一人がきちんと礼を言い、二人は元気よく喜びの声を上げた。
 英の頭をぺんとはたき、蕾は自分の茶を受け取る。
 「それは、お前の危機のために取っておけ」
 少し笑うと、自分の席に着こうと卓を回る夕姫がありがとうと胸に下がっている珠に触れた。
 川原田家の子供が彼女について回ろうとするのを、子供ながら端然と座った香穂が嗜める。
 「ちょっと、うろちょろしてないでおとなしく座ってなさいよ。お湯を扱ってるところにまとわりついたらあぶないでしょう」
 「ご、ごめんなさい」
 叱られて素直に謝るところは母親似か。少々腰が引けているのが哀れに微笑ましい。透が自分の子の頭に手を伸ばし、わしわし撫でた。
 「香穂は躾ができてんなー」
 笑えば横から怪魔が口を出す。
 「でも母ちゃんに教わってんじゃないだろ。教育係とかいんのか?もしかして薫様?」
 「何が言いたい来尾。まあ薫も関わってはいるが、ある緑仙に二人の教育を頼んでいる」
 「へー、緑仙か。そりゃ厳しそうだな」
 「そうでもない。優しい方だ」
 「ふーん。つうか香穂って見た目も似てっけど、このナリで賢いこというとこホント東雲の子って感じだよな」
 「父上…!?」
 透の出した名に、あられに夢中だった英が反応した。耳をぴんと立てた子犬のような姿に大人たちが笑う。
 「お、父ちゃん子は英の方か。昔の話とか聞きたいか?」
 「ききたい!!」
 「あー、そうだよなー、情報に飢えてるよなあ。こんなちびっちゃいのに父ちゃんと引き離されてよう」
 そっと目元を拭うふりをして、透はわしわし男児の頭を撫でた。ついでに、横でへんな顔をしている女児も引き寄せて膝に乗せる。
 「!?なっ、何をするんですか!離してくださいっ」
 「よしよし意地張んなくていいからなー。俺のこと地上の父ちゃんだと思っていいんだぞ?」
 「思いませんよ!?」
 「そう言うなって」
 香穂は必死に抵抗しているが、聖仙としての能力を使わないなら人間といえど大人の男には敵わない。静観している母をちらちら見やり、彼女は仕方なさそうにおとなしくなった。透が顔中で笑う。
 「よーし何でも教えてやるぞー、あいつと一緒のガッコ通ってた時のこととかな。しょっちゅう宿題見せてくれって頼まれてなあ」
 「東雲がな」
 蕾の容赦ないツッコミに、透はだははと頭を掻く。
 「自分の子供の前で、よその子のお父さんになるなんて言わないで…」
 夕姫が我が子を抱き寄せて呟いた言葉は、座敷の空気をしらじらと冷えさせた。

  

 「すっかり長居をした」
 雨は上がったが、じきに日が暮れそうな時刻になってしまった。
 川原田家を辞した蕾とその子供たち、及び来尾は、それぞれに帰ると見せかけて透の薬草園のはたで落ち合った。
 「で、どーすんだ?」
 物珍しげに人界の薬草を見て回っている香穂と、それについて歩く英を横目に怪魔が問う。花仙も同じ方向を見ながら頷いた。
 「そうだな、少々関わってみるか」
 「香穂にお願いされたからか?やっぱオメーでも、子供にゃ甘ーのな」
 なぜかちょっと嬉しそうに言う来尾に、蕾はさらりとかぶりを振った。
 「別に子供らの頼みを聞いたわけではない。どちらかと言えば、気になるのは夕姫の方だ。まるきりらしくない言動ばかりで、あれでは本人の心が先に壊れてしまいかねん」
 「あー…」
 変り種の怪魔が間延びした声を上げる。同意らしい。
 「それに」
 蕾は重くなった空気を払うように声調子を軽くした。
 「オレは御大花将、花の憂いを晴らし恙なく咲かせる者だ」
 「あん…?」
 不得要領な顔に、彼女はにやりと笑みかけてやる。
 「恋は人生の花、と言うではないか。ならば、オレが守っても不思議はあるまい」
 「かーッ言うじゃねーの人妻は!以前のオメーなら考えらんねー」
 自分の額を叩く怪魔の方が照れくさそうだ。蕾は軽く肩をすくめ、
 「人ではないが…まあ、そうかもしれんな」
 子供たちの向こうに誰かの姿を探すように視線を流した。



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 ただいま帰って参りました。
 なんかイマイチ調子がつかめません。日付を確認したら1年4ヶ月ぶりだと知って自分でも驚いています。なんと月日の足の速さよ…今でもカウンターが回っている方が不思議なくらいですね;申し訳ありませんありがとうございます!
 
 またしてもめたくた間を空けて、ちびっといじってみました。続きを書く気がないわけじゃないアピール。初めの構想をかなり忘れかけてますけども。おっふ。


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